『理系の研究者、研究生が作る科学の授業はここが違う!』
2010年12月7日(火)
センス・オブ・ワンダーは昨年から東京大学工学部のゼミを
支援しながら、共に科学教育について研究しています。
このゼミでは、工学部生が「科学を伝える方法」を学んでいます。
2010年度冬学期のゼミでも、今までと同様に「科学を専門としない
人たちに科学を伝える」ことの実践として、小学校で科学の授業を
行いました。
今回は、これまで開催してきた戸田東小学校ではなく、戸田第二小学校
(埼玉県戸田市)での実践となりました。
当日、戸田公園駅に集合した時の学生さんたちの顔はみんな
なんだか眠そう・・・
その訳は、2つの班とも、ぎりぎりまで授業の準備や、資料の準備をして
くれていたからのようです。
今回の授業は、土曜日に実施したため、5、6年生の希望者
の参加となりました。
2つの授業ともそれぞれ12組ほどの親子が集まってくれました。
それでは、当日の授業の様子をご紹介したいと思います。
『回転は人類を救う ~自転車から人工衛星まで~』
講師:大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 博士課程1年生1名、
大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 研究生1名(現役パイロット)
大学院工学系研究科 化学システム工学専攻 修士課程2年生1名
工学部 航空宇宙工学科 4年生1名(授業サポート)
さて、子どもたちが家庭科室に入ってくると、水が入った大きなたらいが
テーブルの上にどっかりと置かれています。
何が始まるのか、子どもたちもわくわくドキドキの様子。
< 回転:授業前の風景 >
まずは、このたらいの中に、みんなで船を浮かべてみます。
波を立てると進む方向があちこち変わってしまいます。
次に、船に『地球ゴマ』を乗せてみます。
するとどうでしょう、波を立てても船は一定の方向へ向いたままに
なりました。
『地球ゴマ』の回転と何か関係があるのでしょうか?
< 『地球ゴマ』を触ってみよう! >
最初に回転していない地球ゴマを持ってみます。
向きを変えても何も起こりません。
次の回転する地球ゴマを手に持ってみます。
方向を変えようとすると・・・
「あれれ? なんだか邪魔されているよ!」
回転することで何かが起きているようです。
< もっと大きなものを回転させてみよう! >
東大のお兄さんが持ってきてくれた(というか乗ってきた!)
自転車のタイヤで実験してみます。
回転するタイヤの向きを変えようとすると・・・
「あれれ・・・重たくて向きが変わらないよ!」
やっぱり何かが起こっているようです。
みんなで”回転で起こる何か”を体験したあと、一体何が起こって
いるかについての説明がありました。
「ものはみんななまけもの。 動いていたら動いていたし、停まっていたら
停まっていたい。 回転していたら同じ向きで回転していたい。
こういうのを『慣性の法則』っていうんだよ。」
そして次は回転について、実験でもう少し詳しく調べてみます。
登場したのは不思議な形のコマです。
このコマも東大のお兄さんが、この授業のために設計したもので、
おもりの位置を自由に変えることができます。
< おもりの位置を変えられるコマ >
おもりの位置を変えながら、一番長い時間回り続ける配置を考えます。
どうやら、軸よりも遠くにバランスよく置くことが大切なようです。
< おもりの位置を変えながら実験 >
このように回転で生まれる力も、工夫することでさらに安定させる
ことができるのですね。
回転の力を利用したものは、私たちの周りにもたくさんあります。
自転車から始まり、昔の人工衛星もそうですし、地球だって回転
(自転)していますよね!
どうして回転しているのか、回転していることでどんなことが起こって
いるのか、そんなことを少し理解するだけで、子どもたちの中からは
もっと新しいアイデアが生まれてきそうです。
身近な現象の背景にある科学の理論が、様々なものに利用されて
いるという、工学部ならではの楽しい授業となりました。
『正しい力の使い方 -みんなで力の法則を見つけよう-』
講師:大学院工学系研究科 システム創成学専攻 修士課程2年生1名
工学部 産業機械工学科 3年生1名
工学部 航空宇宙工学科 3年生1名
工学部 機械情報工学科 4年生1名(授業サポート)
こちらの授業が行われるテーブルには、何やら大きな装置が乗っかって
いました。
< 東大のゼミではこんな風に調整していました >
この実験装置は、何度も何度も試行錯誤を繰り返してやっと
出来上がったものです。
東大生が、自分たちで計算した理論値に近いデータが取れるよう、
改良しながら精度をあげていきました。
< 当日の理科室で装置の使い方を説明します >
子どもも大人も興味津々、そして真剣です!
この装置を使って、振り下ろす金づちの角度と、ささる釘の深さを
調べていくのです。
< 実験中の子どもたち >
「失敗したデータも大切なデータです。」
こんな、工学部の研究生ならではの説明がありました。
失敗してうまく釘がささらなかったものも、番号をつけて、後で
原因が調べられるように大切に保管します。
釘の初めの長さから、実験後に出ている部分の長さを引いて、
ささった長さを計算します。
小数の計算でしたが、算数と科学はつながっているんですよね。
次に、子どもたちは実験で得たデータをグラフに書き込んでいきます。
< グラフにデータを書き込みます >
ある班は、角度の小さい順に実験した釘を並べてみていました。
これだけでもまるでグラフのようです。
何か規則がありそうですね。
みんなでデータを書き込んだグラフを見てみます。
この授業では、「データをとりながら、自分で法則を発見する」という
理系の研究者や研究生なら当たり前の様に行っていることを
子どもたちに伝えてくれました。
東大生からは
「ガリレオだって、自分が考えた理論である『地動説』を証明する
ために、望遠鏡を自分で作り、惑星を観察し、こつこつとデータを
とったのです。」
という話がありました。
実際に今回のデータをとるために、東大生も3日間もゼミの部屋に集まり、
時には徹夜をしながらも装置を改良していました。
子どもたちにも、理論を証明するために、道具を作ったり、データを取ることの
大切さが伝わったことでしょう。
理系の研究者や研究生が伝える科学の授業は、学校で教わる理科よりも
もっと地道で、でも、コツコツと積み上げることの大切さが感じられました。
そして、このような努力の中から生まれる大発見が、今の人類の発展を
支えているのですよね。
子どもたちが受ける科学教育に、もっと理系の研究者や研究生が関わる
機会が増えれば、「科学を学ぶ楽しさ」や「科学を学ぶ意義」を子どもたちも
直に感じてもらえるように思います。
センス・オブ・ワンダーでは、これからも、研究者と子どもたちが直接
出会えるような機会を作っていきたいと思っています。
冬学期の第1回実践授業は無事に終わりました。
関係者の皆様、ご協力頂いた戸田第二小学校の先生方、PTAの皆様
ありがとうございました。
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